母乳育児には
- 過不足のない栄養成分
- IgAなどによる免疫向上
- 産後の子宮復古の促進
- 乳がんや卵巣がんのリスク低減
- 母子の絆の形成
など、様々なメリットがあり、たとえ薬を服用するとしても安易に授乳を中止しないよう、判断・指導することも薬剤師の役割です。
今回は、授乳と薬に関する知識や判断方法について、まとめてみます。
授乳中に注意する医薬品
乳汁への移行が認められる場合、添付文書には「授乳中は投与または授乳を避ける」などと記載されているものが多いですが、実際には乳児が摂取する薬はわずかであり、臨床上問題とならないケースが多いです。
国立生育医療研究センターの妊娠と薬情報センターの「授乳中の使用には適さないと考えられる薬」には
・アミオダロン ・コカイン ・ヨウ化ナトリウム(123I/131I)
が挙げられています。
抗がん剤は細胞増殖抑制作用があるため、基本的には授乳を避けたほうがよく、Medications and Mothers’ Milk におけるHale授乳危険度分類でL5(禁忌)とされているものも多いです。
乳汁分泌を抑制するドパミンアゴニスト(ブロモクリプチンなど)やホルモン製剤(LEP製剤・低用量ピル)も避けたほうが無難です。
その他身近な薬では、中毒域に近づきやすいテオフィリンや、12歳未満の小児に禁忌となっているコデイン類含有製剤にも注意が必要です。
授乳中に注意するサプリメント
アロエ | 母乳移行・乳児下痢の可能性 |
ビルベリー | 動物実験にて黄疸・悪液質 |
セントジョーンズワート | 乳児に傾眠・昏睡などの可能性 |
大豆イソフラボン | エストロゲン様作用による授乳婦のホルモンバランスの変化 |
ローヤルゼリー | 各種アレルギー反応 |
マテ | カフェインの母乳への移行による乳児の神経過敏・不眠 |
朝鮮人参 | 授乳婦のホルモンバランスの変化 |
乳児摂取量の計算
母乳を介した乳児への影響の程度を判断するためによく使われるものに「相対的乳児薬物摂取量(Relative Infant Dose:RID)」があります。
RID(%)=(乳児薬物摂取量[mg/kg/日]÷母親薬物摂取量[mg/kg/日])×100
乳児薬物摂取量=母体Cmax × M/P比 × 哺乳量
M/P比=母乳中濃度/母体血漿中濃度
哺乳量(離乳食開始前)=約150mL/kg/日
RID<10%であれば一般に安全とされています。
実際には、IFの薬物動態→分布→乳汁への移行性の項目などに母乳中濃度が記載されているため、そこに哺乳量を掛けることで乳児薬物摂取量を算出可能。
また、新生児や小児の用量が定まっている薬剤の場合は、「乳児の治療量[mg/kg/日]」を分母の値として利用するのが実際的。治療量の10%未満であれば大きな影響はないと考えられます。
参考資料
投与・授乳の可否を判断するためには、以下の書籍やwebサイトが参考になります。
医薬品によっては、添付文書やIFの情報が不足しているものもあるため、困った時にも。
今日の治療薬
Medications and Mothers’ Milk におけるHale授乳危険度分類が記載されている。
妊娠と薬情報センターHP
国立生育医療研究センター内の一部門。
「使用可能」「使用不適」の医薬品が一覧になっている。
薬物治療コンサルテーション 妊娠と授乳
情報量多い。主に辞書的に使用。
母乳とくすりハンドブック
書籍のほか、webでも閲覧可。
Hale分類をはじめとした4分類における評価が記載されている。
大分県『母乳と薬剤』研究会編。
個人的にオススメ。
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