【薬剤師執筆】乳がん治療薬の使い分け

薬の使い分け

女性のがん罹患率の第1位を占め、若年での発症もみられる乳がん。

乳管や小葉にとどまっているものを非浸潤がん、それらの周囲まで広がっているものを浸潤がんと呼び、最も多いものは浸潤性乳管がんです。

今回はその治療薬について、まとめてみます。

サブタイプ分類

乳がんでは、ホルモン受容体やHER2の発現レベル、がん細胞の増殖能などをもとにサブタイプが分類されており、それによって治療方針が異なります。

大まかには

・ホルモン受容体(+)& HER2(-)
・ホルモン受容体(-)& HER2(+)
・ホルモン受容体(+)& HER2(+)
・トリプルネガティブ

に分けられます。

ホルモン受容体とは、エストロゲン受容体(ER)とプロゲステロン受容体(PgR)です。

ER・PgR・HER2 いずれも陰性のものを「トリプルネガティブ」と呼びます。

また、ホルモン受容体(+)のことを「Luminal(ルミナル)」と呼び

<Luminal A like(ルミナルA様)>
ホルモン受容体:高発現
増殖能・腫瘍量:低
予後:一般に良好

<Luminal B like(ルミナルB様)>
ホルモン受容体:低発現
増殖能・腫瘍量:高
予後:一般に不良

とされています。これによってもやや治療方針が異なってきます。

内分泌療法(ホルモン療法)

ホルモン受容体(+)の際に適応となる治療法です。

閉経前と閉経後で推奨薬が変わります。

<閉経前>
・抗エストロゲン薬
 タモキシフェン(ノルバデックス®︎)など
・LH-RHアゴニスト
 リュープロレリン(リュープリン®︎)など

<閉経後>
・アロマターゼ阻害薬
 アナストロゾール(アリミデックス®︎)
 エキセメスタン(アロマシン®︎)
 レトロゾール(フェマーラ®︎)

「閉経前」の「術後」内分泌療法としては、低リスクであればタモキシフェン5年が標準であり、再発リスクが高い場合は10年へ延長、あるいはLH-RHアゴニストの併用などを行います。

「閉経前」の「転移・再発乳がん」に対する一次内分泌療法としては、タモキシフェン・LH-RHアゴニストの併用が推奨されています。

「閉経後」は副腎から分泌されるアンドロゲンが脂肪組織などのアロマターゼによってエストロゲンに変換されることを防ぐため、「術後」「転移・再発の一次治療」ともにアロマターゼ阻害薬が推奨されています。術後では5年が標準治療期間です。

Luminal B like では内分泌療法に加え化学療法が必要になることも多いです。

ホルモン受容体(+)& HER2(+)の場合は、「術後」では「抗HER2療法→内分泌療法」の順、「転移・再発」では同時併用療法を行うことがあります。

乳房温存を目的とした術前内分泌療法はややエビデンスが弱く、積極的には推奨されていません。

注意点としては、タモキシフェンは「血栓症」「相互作用(例:パロキセチンによる効果減弱)」など、アロマターゼ阻害薬は「骨密度低下」などがあります。

リュープリン®︎は4週に1回の通常製剤のほか、12週に1回の「SR」、24週に1回の「PRO」があります。

手術不能・再発乳がんでは、内分泌療法にCDK4/6阻害薬(イブランス®︎・ベージニオ®︎)やmTOR阻害薬(アフィニトール®︎)を併用する場合があります。間質性肺炎・骨髄抑制・肝不全などに注意。

抗HER2療法

HER2(+)の際に適応となる治療法です。

リンパ節転移が陰性かつ腫瘍径が小さな腫瘍以外は、化学療法(主にタキサン系)を併用します。

術前から開始することにより、乳房を温存できる可能性が高まります。至適投与期間は術前・術後合わせて1年間です。

標準薬はトラスツズマブ(ハーセプチン®︎)であり、効果増強のためにペルツズマブ(パージェタ®︎)を併用する場合があります。

トラスツズマブが効果不十分な際などの代替薬としてラパチニブ(タイケルブ®︎)があります。

トラスツズマブに抗がん剤を結合させた抗体薬物複合体(ADC)であるトラスツズマブ エムタンシン(カドサイラ®︎)やトラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ®︎)も使用可能です。

トラスツズマブは心毒性に注意が必要です。

ペルツズマブは皮膚障害に注意が必要です。保湿外用薬などを使用する場合があります。

タキサン系は末梢神経障害に注意が必要です。サインバルタ®︎・リリカ®︎・メチコバール®︎・牛車腎気丸などを使用する場合があります。

トリプルネガティブに対する化学療法

アンスラサイクリン系・タキサン系・フッ化ピリミジン系・シクロホスファミドなどを使用するレジメンがあります。

シクロホスファミド+ドキソルビシン/エピルビシンを含むレジメンは高度催吐性リスクに分類されます。

シクロホスファミドは出血性膀胱炎に注意が必要です。

アンスラサイクリン系は心毒性に注意が必要です。

タキサン系は末梢神経障害に注意が必要です。サインバルタ®︎・リリカ®︎・メチコバール®︎・牛車腎気丸などを使用する場合があります。

トリプルネガティブでPD-L1(+)の場合は、免疫チェックポイント阻害薬であるテセントリク®︎が使用可能です。間質性肺炎・1型糖尿病・甲状腺機能障害などに注意。

骨転移に対する治療

乳がんは骨転移が起こりやすく、画像により骨破壊が確認された場合にはゾレドロン酸(ゾメタ®︎)やデノスマブ(ランマーク®︎)が使用されます。

ランマーク®︎は骨粗鬆症に使用されるプラリア®︎と異なり4週に1回です(プラリア®︎は6ヵ月に1回)。プラリア®︎同様、低カルシウム血症の副作用対策にデノタス®︎を併用します。

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