【薬剤師執筆】オピオイドの使い分け

薬の使い分け
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耳で覚える薬の使い分け〜オピオイド〜【薬剤師・勉強】
オピオイドの使い分けを解説しています。音声のみで恐縮ですが、通勤途中や寝る前、スキマ時間の勉強に。文章をご希望の方はブログをご参照ください。【薬剤師執筆】オピオイドの使い分け/※2021/03/26現在の情報です。定期的に更新致しますが、最新の情...

がん性疼痛や慢性疼痛など、強い痛みに使用されるオピオイド。

今回はそれらの使い分けについて、まとめてみます。

痛みの段階に応じた使い分け

オピオイドの適応は大きく分けて「がん性疼痛」と「慢性疼痛」です。それぞれで使用できる薬剤がやや異なるため、別に考えるとわかりやすいでしょう。

<がん性疼痛(WHOの三段階ラダーを改変)>
【第一段階(軽度の痛み)】
 非オピオイド:NSAIDs・アセトアミノフェン
 (±鎮痛補助薬:抗うつ薬・抗てんかん薬など)

【第二段階(軽度〜中等度の痛み)】
 弱オピオイド:コデイン・トラマドール
        30mg/日以下のモルヒネ
        20mg/日以下のオキシコドン
 (±非オピオイド)
 (±鎮痛補助薬)
※非麻薬性鎮痛薬であるペンタゾシンやブプレノルフィンも使用される。ただしペンタゾシンはWHOラダーでは記載なし
※モルヒネ・オキシコドンの用量はEAPC(ヨーロッパ緩和医療学会)の定義

【第三段階(中等度〜高度の痛み)】
 強オピオイド:モルヒネ・オキシコドン
        フェンタニル・タペンタドール
        ヒドロモルフォン・メサドン
 (±非オピオイド)
 (±鎮痛補助薬)

古典的には「ある程度の量以上で鎮痛効果が頭打ちになる(有効限界/天井効果)」ものを弱オピオイド、有効限界がないものを強オピオイドと分類していました。ただし現在ではブプレノルフィンを強オピオイド、少量のモルヒネ・オキシコドンを弱オピオイドに含む考え方もあります。

一方、慢性疼痛に対するオピオイドの使い分けは以下のようになります。

<慢性疼痛(軽度から順に)>
非オピオイド(NSAIDs・アセトアミノフェン)
↓
トラマドール(慢性疼痛ではトラムセット®︎も可)
↓
ブプレノルフィン(ノルスパン®︎テープ)
↓
強オピオイド
・塩酸モルヒネ錠・末
(MSコンチン®︎は「がん性疼痛」のみ)
・オキシコンチン®︎TR錠
・フェントス®︎テープ
・デュロテップ®︎MTパッチ
・ワンデュロ®︎パッチ

(±抗うつ薬・抗てんかん薬・神経障害性疼痛治療薬など)

慢性疼痛においては、ノルスパン®︎の調剤時は薬局の登録と登録医師の確認、オキシコンチン®︎・フェントス®︎・デュロテップ®︎・ワンデュロ®︎の調剤時は確認書の提示が必要です。

各薬剤の特徴

コデイン

弱オピオイドの一種で、モルヒネの前駆体。

鎮痛のほかに「各種呼吸器疾患における鎮咳・鎮静」「激しい下痢症状の改善」の適応あり。

肺がんなどにおける咳や呼吸困難感にも使用されることがあります。

速放製剤のみ(ピークは1時間前後、半減期は3〜4時間)のため、持続が不足したり使用頻度が増えたりするようであれば他剤への変更が適すると考えられます。

CYP2D6によりモルヒネに代謝され薬効を発現するため、酵素活性の個人差に影響を受けることがあります。

それぞれの「原末」「散10%」と「コデインリン酸塩錠20mg」は麻薬の指定を受けています。

換算比は「コデイン:経口モルヒネ=6:1」。

トラマドール

弱オピオイドの一種で、コデインの誘導体。

速放製剤の「トラマール®︎」、徐放製剤(1日1回)の「ワントラム®︎」、速放部と徐放部からなる(1日2回)「ツートラム®︎」があります。ツートラム®︎は慢性疼痛のみの適応です。

アセトアミノフェンとの配合剤である「トラムセット®︎」は「慢性疼痛」「抜歯後」の適応です。

ノルアドレナリン及びセロトニンの再取り込み阻害作用を併せ持つことで、侵害受容性疼痛および神経障害性疼痛の抑制効果もあるとされます。抗うつ薬との併用時などはセロトニン症候群に注意。

CYP2D6により活性代謝物となるため、酵素活性の個人差に影響を受けることがあります。

麻薬ではないため処方しやすい点もメリット。

換算比は「トラマドール:経口モルヒネ=5:1」。

ペンタゾシン

麻薬拮抗性鎮痛薬の一種。「ソセゴン®︎」。

他のオピオイドと併用すると、競合的拮抗により他のオピオイドの作用減弱・離脱症状につながることがあり、併用は推奨されません。

鎮痛効果がやや弱く、依存性・精神症状が問題となることもあり、WHO三段階除痛ラダーには記載されていません。

ブプレノルフィン

麻薬拮抗性鎮痛薬の一種。

他のオピオイドと併用すると、競合的拮抗により他のオピオイドの作用減弱・離脱症状につながることがあり、併用は推奨されません。

がん性疼痛に使用されるのは「レペタン®︎坐剤」「レペタン®︎注」のみです。

7日持続の貼付剤である「ノルスパン®︎テープ」は「変形性関節症」「腰痛症」の適応です。

ノルスパン®︎テープの調剤には、薬局の登録と、登録医の確認が必要です。

モルヒネ

強オピオイドの代表薬。

MSコンチン®︎錠・モルペス®︎細粒・オプソ®︎内服液・アンペック®︎坐剤・アンペック®︎注などと、剤形が豊富です。

腎障害患者では活性代謝物であるモルヒネ-6-グルクロニド(M6A)が蓄積するため、副作用に注意が必要です。

肺がんの咳や呼吸困難感で、先行してコデインを使用していた場合などは、その代謝物であるこのモルヒネへのスイッチングがスムーズとも考えられます。

オキシコドン

強オピオイドの一種で、第一選択薬として汎用される薬。

オキシコンチン®︎TR錠・オキノーム®︎散のほか、ジェネリックではカプセルや内服液もあります。

尿中に排泄される活性代謝物は微量なため、腎障害による影響を受けにくいです。

換算比は「経口オキシコドン:経口モルヒネ=2:3」。

オキシコンチン®︎TRの最小規格である5mgはモルヒネ換算で7.5mgとなり(MSコンチン®︎は最小10mg)、より早期に低用量から開始できるメリットもあります。

ちなみにTR錠は乱用防止のために粉砕困難・溶かすとゲル化するように工夫されたもの(溶かして注射するのを防ぐ)。ジェネリックのNX錠はナロキソンという拮抗薬を添加し、注射するとオキシコドンの作用が相殺されるように工夫されたもの(内服ではナロキソンが肝初回通過効果で消失するためきちんと効く)。

フェンタニル

強オピオイドの一種。

持効型の貼付薬(フェントス®︎テープ・ラフェンタ®︎テープ・デュロテップ®︎MTパッチ・ワンデュロ®︎パッチ)と、突出痛が適応の口腔粘膜吸収剤(アブストラル®︎舌下錠・イーフェン®︎バッカル)があります。

貼付薬は基本的に他のオピオイドからのスイッチングで使用しますが、フェントス®︎は適応拡大され導入にも使用できることとなりました。これにより、消化器がんなど初めから内服困難が予想される場合などに、導入として使用可能です。

消化器系副作用が比較的少ないため、それらが問題となる場合にも適。

口腔粘膜吸収剤(ROO:Rapid Onset Opioids)は、内服よりも効果発現が速やかなレスキュー薬です。「2時間以上の間隔をあける」「1日4回まで」などの制限があり、服薬管理が重要となります。また、他のレスキュー薬は定期内服の1/10〜1/4で用量設定をしますが、これらのROOは原則として最小量から開始します。

「フェントス®︎1mg=ラフェンタ®︎1.38mg=デュロテップ®︎2.1mg=ワンデュロ®︎0.84mg=経口モルヒネ30mg」。

<貼付薬の特徴>
・1日製剤のフェントス®︎・ワンデュロ®︎と
 3日製剤のラフェンタ®︎・デュロテップ®︎がある
・デュロテップ®︎・ワンデュロ®︎は貼付後30秒間
 しっかり押さえて接着させる
・貼付部位の加温により血中濃度が上昇する
 (概ね40℃以上は注意)
・血中濃度の立ち上がりが緩やかなため、
 他のオピオイドからのスイッチングの際に
 退薬症状があらわれることがある
 (レスキューで対応)
・1日製剤は開始後および増量後2日間は
 増量を行わない

タペンタドール

強オピオイドの一種。「タペンタ®︎」。

ノルアドレナリン再取り込み阻害作用もあり、神経障害性疼痛にも有効とされます。

消化器系副作用が比較的少なく、相互作用や肝・腎障害の影響を受けにくいため(主要な代謝経路はグルクロン酸抱合)、安全性が高めとされます。

徐放製剤のみのため、レスキューは別成分で。

WHO三段階除痛ラダーには記載なし。

「タペンタドール100mg=経口モルヒネ30mg」。

ヒドロモルフォン

強オピオイドの一種で、持効製剤の「ナルサス®︎」と速放製剤の「ナルラピド®︎」、注射剤の「ナルベイン®」があります。

MSコンチン®︎・オキシコンチン®︎TR・タペンタ®︎が「1日2回」であったのに対し、ナルサス®︎は「1日1回」となり、内服負担が軽減できます。

また、グルクロン酸抱合が主であり、CYP関連の相互作用を受けにくいとされます。

肝・腎障害時はAUCが2〜4倍に上昇するため、注意は必要です。

モルヒネと構造が似ており、がん(特に肺がんなど)に伴う呼吸困難感に有効という報告もあります。

換算比は「ヒドロモルフォン:経口モルヒネ=1:5」。

メサドン

強オピオイドの一種。「メサペイン®︎」。

他のオピオイドとの交差耐性が不完全であり、オピオイド耐性の症例でも有効な場合があります。

他の強オピオイドからのスイッチングで用いる切り札的存在です。

QT延長などの重大な副作用があります。また、正確な換算比がなく、油断すると過量投与になるリスクも存在します。

そのため厳密な管理が必要であり、調剤には薬剤師の登録と、登録医の確認が必要です。

NMDA受容体拮抗作用やセロトニン再取り込み阻害作用もあり、神経障害性疼痛にも有効とされます。

主に肝臓で代謝されるため、腎機能障害の影響は比較的受けにくいです。

定常状態に達するまで7日程度を要するため、その間は増量不可。

副作用対策

オピオイドの三大副作用として

・嘔気
・眠気
・便秘

があります。

このうち嘔気・眠気については耐性が形成されるため、服用を続けることで改善することも多いですが、便秘については耐性が形成されないため、適宜対応が必要となります。

一般的な便秘薬のほか「オピオイド誘発性便秘症」に適応をもつ「ナルデメジン(スインプロイク®︎)」という薬もあります。

眠気は過量投与の兆候でもあるため「痛みは取れるが眠気が強い」などの際は減量が必要な場合があります。

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