【薬剤師執筆】睡眠薬の使い分け

薬の使い分け
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耳で覚える薬の使い分け〜睡眠薬〜【薬剤師・勉強】
睡眠薬の使い分けを解説しています。音声のみで恐縮ですが、通勤途中や寝る前、スキマ時間の勉強に。文章をご希望の方はブログをご参照ください。睡眠薬の使い分け/※2020/12/09現在の情報です。定期的に更新致しますが、最新の情報は添付文書やガイドラ...

日本人の5人に1人が睡眠問題で悩んでいるともいわれるほど、頻度の高い不眠症。

心療内科・精神科のみならず、一般内科でも睡眠薬の処方は珍しくありません。

今回はそれらの使い分けについて、まとめてみます。

※バルビツール系は近年ではあまり使用されないため割愛します。

ベンゾジアゼピン(BZ)系睡眠薬

バルビツール系より安全性が高いということで、長く汎用されてきた睡眠薬です。

「依存性」「筋弛緩作用」「認知機能障害」などのリスクが指摘されており、他の薬が優先されることも多くなりましたが、現在でも使用頻度は高いです。

超短時間型

・トリアゾラム(ハルシオン®︎)

「入眠障害」に使用されます。

超短時間型の中では力価が高く

ハルシオン®︎:マイスリー®︎:アモバン®︎:ルネスタ®︎
=0.25:10:7.5:2.5)

とされており、0.5mgまで増量すれば最強となります(高齢者は上限0.25mg)。

ただし、この薬は「依存性」「筋弛緩作用」「前向性健忘」「反跳性不眠」「CYP3A4阻害による相互作用リスク」が高く、近年では積極的な使用は推奨されていません。

現在の超短時間型は、よりリスクの少ない「非BZ系」が多く使用される傾向にあります(後述)。

短時間型

・ブロチゾラム(レンドルミン®︎)
・ロルメタゼパム(エバミール®︎/ロラメット®︎)
・リルマザホン(リスミー®︎)」

「入眠障害」「中途覚醒」に使用されます。

全体的に効果は mild であり、どちらかといえば「軽めの睡眠薬」として使用されます。

ロルメタゼパムはグルクロン酸抱合による代謝が主なため(CYPの影響が少ない)、肝障害の影響を受けにくいという特徴があります。

作用時間的には、抗不安薬としても使用される「エチゾラム(デパス®︎)」もこちらに分類されます。不眠の背景に不安がある時などに有効な場合がありますが、依存性などに注意。

<参考>
・抗不安薬の使い分け

中間型

・フルニトラゼパム(サイレース®︎)
・ニトラゼパム(ベンザリン®︎/ネルボン®︎)
・エスタゾラム(ユーロジン®︎)

「入眠障害」「中途覚醒」「早朝覚醒」に幅広く使用されます。

フルニトラゼパムは作用が強力です。中間型に分類されますが、脂溶性が高いため「比較的速やかに血中濃度上昇」「消失は二相性を示し、初期には脂質に取り込まれ速やかに血中から減少」と、事実上はやや短時間型に近い作用時間を示します。高齢者は1mgまで。アメリカへの持ち込みには「薬剤証明書」が必要。犯罪防止のため、溶かすと青くなります。

二トラゼパムは抗てんかん薬としての適応もあり、投与制限が90日です。フルニトラゼパムより mild に長く効きます。

エスタゾラムは抗コリン作用が弱く、緑内障への禁忌がありません。

長時間型

・クアゼパム(ドラール®︎)
・フルラゼパム(ダルメート®︎)
・ハロキサゾラム(ソメリン®︎)

「中途覚醒」「早朝覚醒」に使用されます。

近年では処方頻度は少なく、早朝覚醒は背景にうつ状態なども考えられるため、催眠作用のある抗うつ薬などが適する場合もあります(後述)。

クアゼパムは併用禁忌に「食物」とあり、血中濃度が増大するため、最低でも2時間程度は空けて投与する必要があります。

非ベンゾジアゼピン(BZ)系睡眠薬

・ゾルピデム(マイスリー®︎)
・ゾピクロン(アモバン®︎)
・エスゾピクロン(ルネスタ®︎)」

すべて超短時間型に属し、依存性・筋弛緩作用などが少ないためBZに比べ安全性が高いです。

ゾルピデムは苦味がなく使用しやすいですが、統合失調症・双極性障害の不眠に適応がないことや、高齢者は5mgから開始することに注意。

ゾピクロンの短所は苦味です。唾液が苦くなるので人によっては一日中苦く、食事が美味しくなくなる場合もあります。唾液の少ない高齢者はあまり気にならない場合もあります。

エスゾピクロンはゾピクロンのS体のみを抽出したもの。投与量が減っているため、苦味が軽減されています。

メラトニン受容体作動薬

・ラメルテオン(ロゼレム®︎)

比較的軽症の方や、昼夜逆転など睡眠リズムが乱れている方、高齢者のせん妄などに有効です。

生体内のメラトニンは就床時間に最大となることから、ロゼレム®︎も寝る1〜2時間程度前に服用し、寝る時間に濃度が高まるように指示される場合があります。 

CYP1A2の阻害薬であるフルボキサミンと併用禁忌であることや、食直後の服用では血中濃度が低下することに注意。

また、メラトニンそのものを医薬品にした「メラトベル®︎」という小児用薬もあります。

オレキシン受容体拮抗薬

・スボレキサント(ベルソムラ®︎)
・レンボレキサント(デエビゴ®︎)」

「覚醒を抑制」することにより自然な眠気を促し、依存性や離脱症状の少ない薬とされています。理論上は筋弛緩作用もありませんが、転倒の報告はあるので注意は必要です。

ベルソムラ®︎はCYP3A4を強く阻害する薬と併用禁忌であり、「クラリスロマイシン」「イトラコナゾール」などと併用してしまう過誤が多く報告されているため、注意が必要です。デエビゴ®︎は2.5mgであればこれらの薬と併用可能です。

特徴的な副作用として、悪夢を訴える方が時々みられます。

抗うつ薬

不眠の背景に抑うつがある場合や、睡眠が浅い「熟眠困難」の場合は、催眠作用のある抗うつ薬が使用されることがあります。

5-HT2A遮断により睡眠の質が上がるとされているため、「トラゾドン」「ミルタザピン」などが使用されることがあります。

ミルタザピンのH1遮断作用は睡眠の量を増やすことにも寄与します。

<参考>
・抗うつ薬の使い分け

抗精神病薬

不安・焦燥が強いケースでは、比較的少量の抗精神病薬を使用することがあります。

抗うつ薬の項でも述べたH1・5-HT2A遮断作用を含めた様々な受容体への作用が期待できます。

「オランザピン」「クエチアピン」をはじめ鎮静作用の高いものを中心に使用されます。

睡眠衛生指導も大切

不眠症治療は基本的に睡眠薬だけに頼るべきものではありません。

  • 朝日を浴びる(メラトニン分泌の促進)
  • 日中の適度な運動(寝る直前は不適)
  • 昼寝をし過ぎない(しても30分以内)
  • 夕刻以降にカフェインを摂らない
  • 寝る前のブルーライトを避ける
  • 眠くなってから布団に入る
  • 布団の中で考えごとをしない

など、改善できる生活習慣はたくさんあります。

これらをせずに睡眠薬だけに頼るのは適切な薬物治療とはいえないため、合わせて指導していくことも大切です。

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