褥瘡は日々のケアによる予防・治療が大切であり、看護師の果たす役割が大きいと考えられることが多いですが、在宅医療が発展していくに伴い、薬剤師も外用薬の処方設計を中心に積極的に関わっていける分野です。
今回は、そこで使われる外用薬の使い分けについて、まとめてみます。
急性期(1〜3週間)
ここはまだ病態が不安定な時期であり、原因の分析・除去と、変化する病態の観察が大切です。
適度な湿潤環境の保持・創面の保護が重要となります。
治療には主に患部を観察しやすい透明ドレッシング材を使用しますが、外用薬を用いる場合もあります。
その際は、創面保護効果の高い油脂性基剤の外用薬を使用します。
・白色ワセリン ・亜鉛華軟膏/亜鉛華単軟膏 ・アズノール®︎軟膏
などです。
感染を伴う場合は「ゲーベン®︎クリーム」などが使用されます。
慢性期の分類
慢性期ではDESIGN-R®︎という評価尺度が使用されます。
・Depth:深さ ・Exudate:滲出液 ・Size:大きさ ・Inflammation/Infection:炎症/感染 ・Granulation:肉芽組織 ・Necrotic tissue:壊死組織
であり、ポケット(創周囲の皮膚の下に洞窟のようにできた空洞)がある場合は「P」が追加されます。
軽度は小文字、重度は大文字で表現されます。
浅い褥瘡は「d」、深い褥瘡は「D」といった感じです。
大文字を小文字にしていくように治療を進めていきます。
このうち、「d:浅い褥瘡」「D:深い褥瘡」では治療方針が変わってくるので、以下にて別に解説します。
慢性期(浅い褥瘡)
急性期と同様の「発赤/紫斑」「水疱」「びらん/浅い潰瘍」が主な症状であり、多くの場合は上皮化・早期治癒が期待できます。
治療も急性期と同様、ドレッシング材が主となりますが、創面保護のため「亜鉛華軟膏/亜鉛華単軟膏」や「アズノール®︎軟膏」が使用されることもあります。
他に、上皮化を促すために
・プロスタンディン®︎軟膏 ・アクトシン®︎軟膏
が使用されることもあります。
プロスタンディン®︎は油脂性基剤のため、乾燥気味で滲出液・浮腫の少ない創に。
逆にアクトシン®︎は水溶性基剤のため、滲出液・浮腫の目立つ創に。
慢性期(深い褥瘡)
前述の通り、DESIGN-R®︎の大文字を小文字にしていくように治療を進めていきます。
順番としては
①N→n:壊死組織の除去 ②G→g:肉芽組織の形成 ③S→s:創の縮小
となります。
E・I・Pについては適宜優先度を考えて治療していきます。
①N→n:壊死組織の除去
壊死組織を放置しておくと感染の温床となり、その後の治療に影響が出るため、最優先で除去します。
外科的除去(デブリードマン)の補助、あるいは柔らかい壊死組織の除去のため外用薬を使用します。
<滲出液の少ない場合> ・ゲーベン®︎クリーム <多い場合> ・ブロメライン®︎軟膏
などを使用します。
ゲーベン®︎は感染に対しても有効です。
ブロメライン®︎は刺激が強いため、周囲皮膚をワセリンなどで保護します。
その他に
・カデックス®︎軟膏 ・イソジン®︎シュガーパスタ軟膏 ユーパスタ®︎コーワ軟膏
もガイドラインには記載されています。
②G→g:肉芽組織の形成
「黒色期(黒色の壊死組織の塊がある状態)」→「黄色期(黒色期は終わったが、まだ深部壊死組織や不良肉芽がある状態)」を経て、「赤色期」と呼ばれる肉芽形成が進行する時期には、その形成を促進する薬剤が使用されます。
具体的には
・滲出液が特に少ない場合 →オルセノン®︎軟膏 ・滲出液が適正〜少なめの場合 →プロスタンディン®︎軟膏 フィブラスト®︎スプレー ・滲出液が多い場合 →アクトシン®︎軟膏 イソジン®︎シュガーパスタ軟膏 ユーパスタ®︎コーワ軟膏
などが使用されます。
③S→s:創の縮小
肉芽が十分に形成された後は、創の縮小作用を有する薬剤を使用していきます。
②肉芽組織の形成でも使用したもののうち、オルセノン®︎軟膏以外を使用します。
滲出液の量による使い分け
ガイドラインでは
・滲出液が多い場合 →カデックス®︎軟膏 イソジン®︎シュガーパスタ軟膏 ユーパスタ®︎コーワ軟膏 ・滲出液が少ない場合 →ゲーベン®︎クリーム(感染創) オルセノン®︎軟膏(非感染創)
などとされています。
実際はまず①〜③の治療から考えて、その上で「滲出液が多いからこっちを使おう」などといった使い方になります。
感染の有無による使い分け
・ゲーベン®︎クリーム ・イソジン®︎シュガーパスタ軟膏 ・ユーパスタ®︎コーワ軟膏
が推奨度B。
まずは感染の温床となり得る壊死組織の除去が優先(上記参照)。
ポケットの治療
まずは壊死組織の除去と感染制御、創内洗浄を適切に行った上で
・滲出液が多い場合 →イソジン®︎シュガーパスタ軟膏 →ユーパスタ®︎コーワ軟膏 ・滲出液が少ない場合 →フィブラスト®︎スプレー オルセノン®︎軟膏
が使用されます。
単に塗布するだけでは薬剤が滞留せず効果が得られにくいため、ドレッシング材を創内に充填する「創内固定」を行う場合も。
外用薬の塗り方
褥瘡における外用薬は「厚く塗る」ことで効果を発揮します。
浅い褥瘡の場合は3mm程度の厚さで外用すること、深い褥瘡の場合は創内にしっかり薬剤を充填することが大切です。
前述の「創内固定」や、テーピングやスポンジで創の変形を防止する「創外固定」が合わせて行われることもあります。
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