わが国におけるがんの中では男女ともに罹患率が高く、薬剤師としても遭遇する機会の多い大腸がん。
今回はその治療薬について、まとめてみます。
術後補助化学療法
大腸がん(結腸・直腸がん)のうち、ステージⅢまたは再発リスクの高いステージⅡの症例で行われる、術後補助化学療法。
ステージⅢの場合、30%程度が5年以内に再発するといわれておりますが、術後補助化学療法により20%程度まで再発率を減らすことができます。
術後補助化学療法のレジメン
ガイドラインで推奨されるレジメンには以下があります。
①FOLFOX (5-FU/レボホリナート/オキサリプラチン静注) ②XELOX (カペシタビン内服/オキサリプラチン静注) ③カペシタビン(ゼローダ®︎)単剤 ④S-1(ティーエスワン®︎)単剤 ⑤UFT/LV内服 ⑥5-FU/LV静注
このうち再発抑制効果が優れているのは
- ①FOLFOX
- ②XELOX
の2つで、これらが現在標準的に使われます。
FOLFIRIはリスク/ベネフィットに劣ることから、術後補助では使用しません。
次に有効といわれているのが
③カペシタビン単剤
内服のみで治療可能なため、静注に問題があるケースや、患者の負担を考慮して選択される場合があります。
④⑤⑥は再発抑制のエビデンスはやや劣りますが、①②③が適用できないケースで選択されることがあります。
ちなみに分子標的薬は、上乗せによる再発抑制効果のエビデンスは少なく、術後補助では使用しません。
FOLFOXとXELOXの比較
術後補助化学療法においては、再発抑制効果は同等といわれています。
FOLFOXのほうが歴史が古く、使い慣れている医師も多いです。
XELOXはポートやポンプが不要で、通院回数も3週に1回へ減らすことができるため(FOLFOXは2週に1回)、患者・医療関係者の負担を軽減できるというメリットがあり、近年使用率が上がっています。
副作用の面では
・FOLFOXは好中球減少の頻度が高め ・XELOXは下痢の頻度が高め &カペシタビンによる手足症候群に注意
という違いがあります。
術後補助化学療法施行の時期
術後、体力が回復してから、遅くなり過ぎないうちに。
一般的に術後4〜8週程度で開始します。
治療期間は6ヶ月が標準ですが、近年では3ヶ月程度でも再発率にさほどの差がないという意見もあり、検討が重ねられています。
手術不能な進行・再発がんの治療
遠隔転移・遠隔再発をきたした場合には手術の適応とはならないため、化学療法が中心となります。
術後補助でも使用されるFOLFOXやXELOXに加え、FOLFIRI(FOLFOXのオキサリプラチンをイリノテカンに変えたもの)なども使用されます。
これらに
・アバスチン®︎ ・アービタックス®︎ ・ベクティビックス®︎
といった分子標的薬が併用されることもあります。ただし、アービタックス®︎・ベクティビックス®︎はRAS遺伝子変異のある症例には無効であるため使用できません(RAS遺伝子野生型のみの適応)。
二次治療以降では、FOLFIRIとの併用のもとで
・サイラムザ®︎ ・ザルトラップ®︎
の点滴が使用可能です。
また、三次治療においては内服薬の
・ロンサーフ®︎ ・スチバーガ®︎
なども存在します。ロンサーフ®︎は週5で服用・2日休薬を2週繰り返し、その後2週休薬します。スチバーガ®︎は3週服用・1週休薬です。どちらも食後服用です。
さらに免疫チェックポイント阻害薬である
・オプジーボ®︎ ・キイトルーダ®︎ ・ヤーボイ®︎
が「高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)」の大腸がんに使用可能です。
MSI-High とは、遺伝子上にある1〜数個の塩基配列の繰り返し部分に一定の変異があるもので、これによりDNA修復にエラーが起こっているものを指します。大腸がんの10%前後にみられるとされています。
副作用対策
オキサリプラチンが中等度催吐性リスク薬にあたるため、FOLFOXやXELOXでは
・イメンド®︎・デカドロン®︎・ナウゼリン®︎ ・ノバミン®︎・ワイパックス®︎
などが使われることがあります。
またオキサリプラチンによる末梢神経障害のため
・メチコバール®︎・リリカ®︎・サインバルタ®︎
などが使われることがあります。
FOLFIRIにおけるイリノテカンによる下痢に対しては、抗コリン薬(ブスコパン®︎)のほか、活性代謝物であるSN-38の生成を抑制する半夏瀉心湯や、SN-38の排泄を促進するセンノシドを使用することがあります。
カペシタビンやスチバーガ®︎による手足症候群に対しては、保湿剤(ヒルドイド®︎)やステロイドが使われることがあります。
特にFOLFOXで起こりやすい好中球減少については、抗菌薬を事前に処方しておき、発熱時に内服するよう指示されることがあります。
分子標的薬では、間質性肺炎・骨髄抑制・肝障害・消化管穿孔など、致命的な副作用があらわれる可能性に注意が必要です。
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